株式会社いろどり 代表取締役社長 横石知二
「どんな人にでも居場所と出番があり役割が必要である」
2018年、四国で唯一「SDGs未来都市」に選定されて話題を呼んだ徳島県上勝町で、日本料理などのつまもの(飾り)に使う葉っぱや花を「彩(いろどり)」ブランドで商品化し、”つまもの”市場で全国シェア8割のビジネスに育てたのが、株式会社いろどり代表取締役社長、横石知二氏です。
横石氏は徳島県徳島市出身で1958年生まれで、2020年に62歳を迎えます。
1979年、徳島県農業大学校園芸学科卒業と同時に上勝町農協に営農指導員として就職しました。1991年に上勝町役場に転籍、2002年上勝町役場を退職し、株式会社いろどりの専務に就任、その後副社長を経て2009年5月に代表取締役社長に就任し現在に至っています。
この間、2002年にはアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー(国際的アントレプレナー(起業家)表彰制度)日本大会特別賞を受賞し、2007年7月には「News Week(日本版)」世界を変える社会起業家 100人に選出されています。
また、「生涯現役社会のつくり方」、「そうだ、葉っぱを売ろう!~過疎の町、どん底からの再生~」、「学者は語れない儲かる里山資本テクニック」、「いろどり社会が日本を変える鈴木俊博/著 横石知二/監修」の4冊を出版されています。
よそ者が何を言う
徳島県上勝町は徳島市から車で約1時間のほとんど山間部の町です。人口は約1,500人(2020年3月現在)で65歳以上の高齢者がその50%を占める町です。
横石氏は、1979年に20歳の若さで上勝町農協の営農指導員として活動を始めました。
当時の上勝町の主な産業は、林業とみかんの栽培でした。しかし、安価な輸入木材のため林業はじり貧となり、もう1つの柱であるみかんも値崩れし、町の人たちの気持ちも荒れていました。
横石氏は、次々と農業経営改革の提案をしましたが「よそ者のお前が、えらそうなことをぬかすな!」と相手にされませんでした。
そんな逆風の中でしたが、みかんに代わる現金収入を得るため、農家が自家用に栽培していた青物野菜を市場に出荷することにしました。横石さん自ら農家を回って野菜を集め、翌日のセリに間に合うよう徳島市内の市場に出荷しセリに立ち合い、売上金を農家に届けてから、農協へ出勤する生活が続きました。
その後は市場関係者のアドバイスを受けながら、横石氏が自ら行動することで農家の現金収入を増やすことができ、上勝町の人々との信頼関係を築き上げていました。
おばあちゃんの葉っぱビジネス
次に着目したのは「葉っぱ」でした。横石氏が大阪のすし屋で、近くの席にいた若い女性グループが料理に添えられた葉っぱを見て盛り上がっていたのです。それをみた横石氏は、うちの裏山にいくらでもあるのに何で葉っぱに感動しているのかと不思議に思いながらも「葉っぱ」が商品として売れることに気づきました。
上勝町に戻り、ようやく説得したおばあさん4人に葉っぱを集めてもらいパックに詰めて販売しましたが全く売れませんでした。さらにある料亭の料理人に「これは使えん」といわれ、理由も教えてもらえませんでした。
横石氏はあきらめず、自腹で2年間料亭に通い中居・料理人から料理のつまの葉っぱについて勉強を続けながら、全国を「つまもの(葉っぱ)」の営業に回り、現在では全国の8割を占めるにいたりました。さらに上勝町の人たちを料亭に連れていき、「葉っぱ」に使い方を実際に見てもらうことも行い、売れることを直接みてもらいました。
事業の特徴・仕組み
いろどり事業は、商品である葉や花を近所で簡単に取ることができ、しかも軽くてかさばらないため、女性や高齢者でも容易に参加することができます。
葉っぱビジネスは、(株)いろどりが、葉っぱの需要予測を立て、その需要予測を生産者に提供。生産者はその情報に基づいて出荷計画を立て、農協に出荷します。
また、農協に直接注文されたものは、農協から生産者に情報が提供され、早い者勝ちで出荷者が決まります。競争原理が働くように情報は公平に提供され、生産者はパソコが構築されています。
このため、事業初期の1998年に参加者が高齢者が自宅でも操作できるように工夫を凝らしたコンピュータシステムを開発し、各参加者の住宅にパソコンを設置しています。
葉っぱビジネスと高齢者
横石氏が手がけてきた「彩(いろどり)」事業は、単に葉っぱを売るだけではなく、上勝町の高齢者が「彩」を生産することで生き生きと働き、平均年齢70歳、190名のお年寄りたちが、多い人で月収60万の高収入を得ていくなど、「彩」事業は、上勝町に持続可能な事業をもたらすことに成功しました。